ヤクルト1000とやっと邂逅した話

ヤクルト1000という飲み物がある。

コロナが流行り出したころくらいに、これを飲むととてもよく眠れるらしいと話題になり、気が付いた時には店頭からその姿は消えていた。いつも行く片田舎のスーパーでは、商品棚に「おひとり様1本まで」という貼り紙はしてあるもののヤクルト1000のコーナーはいつ見てもがらんとしており、ヤクルトレディなら持っていると噂に聞くも職場で声を掛けられず、そのまま年単位の時間が経過した。その年月の間、いつものスーパーにヤクルト1000は一度も並んでいなかった。本当に仕入れているのかと疑いたくなるほどに。でも、仕入れていないなら本数制限ではなく「入荷なし」と貼り紙をするだろうから、多分仕入れてはいるのだろうな。タイミングが悪いのだろう、そう思っていた。

あるとき、いつものスーパーで売り場の貼り紙が「おひとり様2本まで」になっていた。増えている! 思わず二度見した。やはりヤクルト1000のコーナーはがら空きのままだったけれど、このスーパーは確かにヤクルト1000を仕入れていることと、世間でのヤクルト1000の供給量が増えているらしいことはわかった。そしてこの近辺ではヤクルト1000がかなり人気なのではないか、ということも。在庫が増えているのだろうに、この捌けぶりはなかなかではなかろうか? 皆様、健康志向が強い。ヤクルト1000は確実に私に近づいてきているけれど、まだ遠い。この調子で「おひとり様3本まで」になったらどうしようと思いつつ、私は空っぽの棚の前を通る日々を送った。

そしてついにその時が来た。いつもの時間、いつものスーパーでふとそこに目を遣ると、あるではないか、ヤクルト1000が。それも大群だった。思わず「ええ!」と声が出てしまったので、近くにいたおばさんがそそくさと離れていった。しかし私の驚きもどうか理解してほしい。もはや「無い」ことを確認することが習慣のようになっていたのに、そこに存在していたのだから。お化けが出たようなものだ。手に取ってみる。普通のヤクルトよりずいぶん背が高い。そしてお値段も高い、毎日飲むには厳しい。1本だけ買った。今は冷蔵庫のポケットに佇んでいる。なんだかぐったり疲れてしまったときために、しばらく温存しようと思う。大事にし過ぎて、私の疲労の限界より先に賞味期限が到来しそうではあるけれど。

さてこのヤクルト1000、次にスーパーへ行ったときには売り場にひとつもなかった。あれから私は次の機会を期待して、買い物ついでにヤクルトコーナーを覗くのをやめられないでいる。運試しをしている気分だ。法則性を見つけたいところだけれど、いかんせん確保1回きりでは法則もへったくれもない。果たして私はヤクルト1000と再会できるだろうか? あの珍しいものを発見できた時のめでたさをまた味わいたい。