宝塚旅行記③:宝塚駅周辺~伊丹空港、帰路

宝塚滞在2日目、朝6時30分に目覚ましをかけたもののなかなかベッドから抜け出せず、7時20分くらいにやっと起きた。ホテルのカーテンは分厚く、また朝日ががんがん差し込むような部屋でもなかったから実に寝心地が良くて、自宅の布団より縦も横も大きいベッドも快眠をもたらしてくれた。カーテンを開けると武庫川が見えて、遠くの山に薄雲がかかっている。のどかな風景だ。

スカイステージを見ながら身支度を整え、8時前に朝食会場へ。以前宿泊したときは洋食セットか和食セットかを選ぶ形式だったけれど、今はビュッフェスタイルになったそうだ。昨晩あれだけ食べたというのにおなかが空いていたので、和洋に囚われず料理を楽しむ。しかしやはり洋食、特にパンとオムレツが魅力的だった。パンは前よりもサイズ感は小さくなったものの種類が増えていて選ぶのが楽しかった。やはりクロワッサンが美味しい。オムレツは、目の前で焼きあがる様子を観察できておもしろかった。たまごをジャーっとフライパンに流し入れ、カシャカシャと少し混ぜ、薄く焼けたふちの方を少し剥がしたと思ったら、フライパンを振るい、半分くらい火が通ったたまごをくるりくるりんと巻いていく。あっという間に絵本に出てきそうなオムレツがお皿の上にご登場だ。これを朝から1回も間違えずに皆に焼けるなんて。おそらく私がまじまじと見ていたせいだろう、ご丁寧にオムレツにかけるソースのご説明まで賜った。ありがたくケチャップをかけた。

お米もパンもいただいて、普段の2食分くらい食べてしまった。さすがに食べ過ぎたと思って、チェックアウトの時間まで近くを散策することにする。昨晩は雨が降っていたけれど今日は打って変わって晴れて、日傘がないと暑いくらいだ。花のみちを行く。この道は脇に様々な花木が植えてあり、つい途中で立ち止まって見てしまう。今回の大物はこちら。

この木なんの木

こぶし大の実をいくつもつけているこの木、リンゴっぽいけれど何かが違う。カリンかな? と予想しつつも特に名札などがないので答え合わせはできていない。こういう風に実がなる木は存在感が違う。花の季節が終わってもなお魅力的だ。その実は食べられるかな? とすぐに思ってしまう私は紛うことなき食いしん坊ということだろう。

キャトルレーヴに立ち寄る。開店3分前くらいについて待っていたら、その日の入店1番乗りになった。Délicieux! のメインテーマが流れる店内はさすがに朝一なので空いており、お買い物しやすかった。ポストカードなどをお土産に買う。劇場の郵便局から自分宛にはがきを出してラインダンスの絵柄の消印が欲しかったけれど、閉まっていた。無念。

お店を出て、宝塚大橋のふもとから武庫川に降りる。私は今までの生活で川へ行ったことがほとんどない。その数少ないサンプルの中だと、武庫川は大きな川に該当する。段差になった箇所で水がどおどおと音を立てている。落っこちたら大変なことになりそう。川に沿って歩く。晴れて、風が吹いて、水面がきらきらしていて理想的な日曜日の午前だった。ランニング中の人や散歩中の犬に行き会う。犬は秋田犬とフレンチブルに遭遇した。かわいい。ちゃぽん、という音のする方を見たら大きな鯉が泳いでいた。ヌシかもしれない。川に入るか入らないかの辺りで水浴びする鳩を眺めていたら頃合いになった。名残惜しくも出発しなければならない。

眺めのいい武庫川と鳩の御一行様

ホテルをチェックアウトした後、すぐさま空港へ向かうかというとそうではなく、私にはあとひとつ宝塚でやりたいことがあった。それは花のみちセルカの2階にある「パスタ」でピラフを食べること。何を言っているのやらという感じかもしれないけれど、「パスタ」は店名だ。そしてピラフは洋風炊き込みご飯のピラフだ。念のためお知らせしておくと、「パスタ」ではパスタも出している。しかし私は「パスタ」のピラフが美味しいと聞いた。はてさて。

Pasta パスタ【公式】 (owst.jp)

しばし迷い、メニュー表でおすすめと紹介されていた「たらこバターライス」を注文した。ふと隣の席を見ると、ピラフを召し上がっている最中だった。私はスプーンで崩されゆく隣のピラフの山を見て、もしかすると大変な量が届くかもしれないと思った。いくら散歩したとはいえ距離にして2kmもなかろう、そこまでの空腹状態ではないコンディションで立ち向かえるのか? と一抹の不安を覚えたところでたらこバターライスが登場した。

お米はどちらかというとぱらぱらというよりしっとりとした口当たりだ。タマネギやニンジンなどの野菜の甘みがお米にも染みわたっていて美味しい。一口大に切られたたらこがいくつも乗っているのも贅沢だ。たらこががっつりお米に混ぜ込まれていないので、たらこ有り・無しで自然に味変ができる。高菜と海苔もいいアクセントだ。土台のお米が洋風、トッピングは総じて和風というなかなか見かけないスタイルだけれど、まったく違和感がない、むしろ相性の良さを感じた。危惧していた分量はというと、お茶碗3杯分は堅い分量だった。しかしながら不思議とスイスイ食べ進められてしまう魔性のピラフであった。

いよいよ駅へ。ここで偶然にも10分後にちいかわ電車が来ることを知り、これを待つことにした。電車を1本見送っても致命傷にならないのは都会の証拠だ。地元でこれをやると大変なことになる。乗り場へ行くと、ホームの突き当りに噂に聞きし大羽根パネルを発見した。このパネルの前に佇むとさながらトップスターのような写真が撮れるというもので、ちょうど立ち位置の辺りがライトで照らされていた。しかし一人旅では太刀打ちできない代物だったので、パネルだけ写真に収めてきた。一人旅で数少ないできないこと、それは自分自身の写真を撮ることができないこと。今までちょこちょことひとりで旅行をしているけれど、カメラロールはもっぱら食べ物か風景だ。自分の写真を撮るのに居合わせた人に頼むのは気が引けるし、タイマーを駆使するほどでもないし。

周囲にちいかわ電車待ちの人々が集まってきた。子供連れの家族が多い。ラッピング車両がホームに入ってくると、小さい子たちがわあわあ言っていて可愛らしかった。君たちもちいかわと呼んで差し支えなかろう。

写真を撮りながら、動いているものは撮るのが難しいなと思った。それにここは駅のホームだし対象物も電車なので、あちらこちらに利用客がいるからシャッターチャンスがほぼない。何枚か撮ったけどどれもこれもいまいちだったので、とっとと電車に乗り込んだ。車内の中吊り広告なんかもちいかわ一色だ。

モノレールに乗り換えるため、蛍池駅で下車。駅構内を歩いていると、どんどこと太鼓の音と掛け声が聞こえる。何だろうと音のする方へ行ってみると、だんじり祭りの御一行を発見した。大勢で元気に練り歩いている。昨日も電車の中から見ることができたし、2日連続でラッキーだ。

ちなみに、大阪モノレールは万博ラッピング車両だった。赤青白のミャクミャクカラーは目を引く。万博開催までしばらく走り続けるらしい。車内はミャクミャクだらけということもなく、ごく普通だった。ミャクミャクは、今回の旅行中に様々なところで見かけた。お土産コーナーでもしょっちゅう出くわした。さすが開催地域。一度見ると忘れがたい造形をしている。

日曜日の伊丹空港は大変な混雑ぶりだったのでしばらくラウンジに引っ込み、日射しが和らいだ頃に展望テラスへ向かった。地元とは比べ物にならないくらい飛行機がいて、次々飛んでいく。どんどん加速し、ある時点でふわっと空に浮かぶ様子は、繰り返し見ていても「くるぞ、くるぞ、おお飛んだ」と私の胸の内で毎回盛り上がる。延々見ていられそうな光景だ。何度やってもおぼつかない手荷物検査を受け、買い忘れていたいかなごくぎ煮をゲットし、やたら辺鄙な場所にある搭乗口へ向かう。向かった先の待合でも飛行機を見ていた。展望台よりも待合の方が飛行機との距離が近い。

帰りのフライトは夕方から夜にかけてのものだった。窓の片方には夕暮れの真っ赤な空、もう片方には星が小さく瞬く夜の空が広がる。夜のドライブで月がついてくることがあるけれど、今回は太陽がついてきている。いや、私たちが太陽について行っているのか。地上にいればほんの数分しか感じえない、夕暮れの太陽の色が一番濃くなる時間が飛行機の中ではしばらく続いた。それでもやっぱり太陽の速さには追い付かなくて、空はどんどん濃紺に染まっていく。やがてすべての窓が同じ色になった。地上の明かりが見えない場所を飛んでいると、隔絶された世界にいるようで少し怖い。スケールがまるで違うけれど、宇宙に行くとこんな感じなのだろうか。

紺色の世界を飛び続けるうちに、もうじき到着するとアナウンスが入った。窓の外、眼下には街の形が光で浮かび上がっている。普段は見上げるばかりの建物たちだけれど、上から見てもなんとなくどれが何なのか判別できた。少し誇らしい。ここが私の帰る場所ということで相違ないだろう。