嬉野旅行記:ペンギンとナマズと

冬の空は高く、深く緑のなだらかな稜線が美しい。ここは嬉野、特に温泉とお茶で知られる町だ。九州圏内に住んでいながら、嬉野を訪れたのは今回が初めてだ。ゆったり上品で奥ゆかしい印象がある嬉野、さっそく駅前に足湯があるのはさすが温泉どころ。

今回の第一目的は「ペンギンアパートメント」という、Suicaのペンギンをお描きになっているさかざきちはるさんの展覧会。そして温泉に浸かり、更には佐賀の美味しいものを食べようという豪華3本立てだ。和多屋別荘という温泉旅館が会場ということなので、まずはそこを目指す。

さかざきちはる|レストラン&スパ|佐賀県 嬉野温泉 - 和多屋別荘 (wataya.co.jp)

地図によると駅から旅館までおおむね2キロ、歩いていける距離だ。歩いていこうとしたところ、折よく路線バスが駅のロータリーにやって来た。「嬉野温泉」と表示されているし、たぶん私が行きたい方面に行くバスではなかろうか! と勢いで乗ることにした。下調べゼロの知らない路線バスはスリリング。少し走ると大きな道路に出たので、大体この辺りだろうと思ったところで下車した。嬉野市役所前。グーグルマップと勘を併用して和多屋別荘まで歩いたらシンプルに迷った。10分ほどさまよったら到着したけれど、正しい道で行けば多分5分以内で着く、そんな距離だった。

さて、ペンギンアパートメント。入口入って真正面にペンギンとナマズのランタンが飾られている。メインビジュアルのようにペンギンが白いナマズの背に乗っている。このランタン、ペンギンに限らずだけれど、嬉野ではランタン作りが盛んであるらしく、駅や神社、旅館の内装などあちこちで目にすることになった。和紙を使っているのか、パッと見て和洋織り交ぜたような雰囲気を感じる。

これは駅の近くで見たランタンたち

ランタンの近くには、正方形の紙に描かれたペンギンのイラストがたくさん並んでいる。それらは立体的な木の額縁で囲われていて、さながら部屋のようだ。アパートメントとはこのこと。Suicaのペンギンがこんなに表情豊かで動的だということを初めて知ったように思う。特に「怒」というタイトルのイラスト、そんな顔できるのか、と思って二度見した。ペンギンも怒りたいときがあるらしい。

昼になったので、旅館内にあるレストランで佐賀牛のローストビーフ丼を食べた。これがとても美味しかったので、おすすめしたい。メニューには写真がなかったので、はてさてどんな丼が届くかなと待ち構えていたところ、期待以上のお肉が来た。最高! また食べに行きたい。

腹ごなしに散策しようと一旦旅館を出る。スタンプラリーだ。フライヤーにプリントされた地図に従っててくてく歩く。この通りが温泉街なのだろう、趣のあるお店やおしゃれな雰囲気のお店が立ち並ぶ。そして足湯スポットがいくつもある。少し歩くと足湯、もう少し先に行くとまた足湯。こんなに足湯を楽しめるなら足を拭くためのタオルを持ってくるべきだった。

スタンプ1か所目は井手酒造さんという蔵元さんだ。

佐賀県嬉野市のお土産で人気の地酒を扱う井手酒造|通販あり (toranoko.co.jp)

店先に長い歴史をうかがわせる品々が並ぶ。こちらのお店の方と話が弾んだのがこの日のハイライトだ。おかげさまで道に迷わずスタンプラリーをコンプリートできたので、本当にありがたい。今度こちらの「虎之児」を探していただいてみよう。

親切なお店の方とさよならしてものの1分ほど、道の反対側から「只今このカフェ、シークレットプレオープン中なのですけれど、見て行かれませんか?」と声をかけられた。なんともおしゃれな外観、聞くところによるとチョコレートを扱うお店とのこと。折角なのでカフェを利用することにしてメニューを開くと、ドリンクにちゃんと緑茶がラインナップされている。玉緑茶と嬉野ショコラソフトクリームを注文。テーブルに運ばれてきた素晴らしく明るい緑のお茶、これは美味しい。ふわっと甘く鼻から抜けていくお茶の香りは身に纏いたいくらいだ。ショコラソフトは抹茶のみどりで飾り付けしてあるのが洒落ている。一片添えられた抹茶チョコの濃厚なこと。

エネルギーを充填したところでまっすぐ行けば着くと教えていただいた第2のスタンプ会場へ。224、224…と探して発見。こちらはどうやら陶器のセレクトショップのようだ。

224porcelain|佐賀県嬉野市で作られる陶磁器・肥前吉田焼

入店を知らせるベルの音がなんとも優しくて、思わずドアを見上げた。見たことのない形のベルがかかっていた。ここでスタンプが2つ揃ったので、記念品を頂いた。見慣れないものだったので質問したところ、こちらはカトラリーレストといい、ナイフやフォークを一式置いておけるのだそうだ。箱の中で目を引かれた赤いものを選ばせてもらった。

スタンプラリーをコンプリートした私は、折角なので今回の展覧会でも描かれている白いナマズをお祀りしている神社へ向かった。鳥居の向こうにラーメンの看板が見えている、なんとも風情のある参道だ。

この豊玉姫神社には、神様の遣いである白いナマズが祀られている。かつて近辺の人々の皮膚病を治したのだそうだ。嬉野ではナマズは食べないというほど大切にされているそうで、そのためか神社のあちこちに白いナマズを見つけることができた。お参りの作法に倣って白いナマズにお祈りする。どうかしわとシミの少ないきれいな肌にしてください。

美肌のお願いをしたところで、温泉に浸かりに行くために来た道を戻る。再び旅館に着いて温泉のフロアに踏み入れると、外の空気の冷たさが嘘のように、床からじんわりと温かい。意気揚々と温泉へ。大きなお風呂、露天風呂、木のお風呂があるほか、サウナと水風呂もある。私には入浴しただけでお湯の良し悪しや性質がわかる者ではないけれど、この温泉のお湯がしっとりと肌を包むような感触、とろんとしていることはわかった。たっぷりのお湯につかっていると体の隅々まで温まる。極楽だ。天気が良かったので露天風呂も楽しめた。露天風呂なんていつぶりだろう? 外の空気を吸いながら温泉に浸かるのはなかなか気分がいい。かれこれ20~30分ほどしっかり温まってからお湯を出た。本当はもっと温泉に入っていたかったのだけれど、湯疲れしやすいのでここらが限界。楽しい温泉は引き際も肝心だ。

温泉フロアのロビーから見える景色。綺麗!

名残惜しくも移動の時間だ。嬉野温泉駅へ向かう。行きはバスで走った道を今度は歩いていく。道が広々していて気分がいい。駅のほど近くにあるお店に入り、お土産を買う。

UPLIFT SHIMOJYUKU-アップリフトシモジュク‐|嬉野温泉駅|嬉野市 (uplift-shimojyuku.com)

このお店には嬉野近郊の農産物や雑貨が揃っていて、見ごたえがあった。私は芽キャベツとお茶碗、箸置きを買った。芽キャベツは食べたことがないし、茶碗はしばらく前に割ってしまってからなんとなく買わずにいたので、いい機会だと思った。カフェで売っていたソフトクリームは、迷った末に見送った。ソフトクリームを1日に2つは多い気がして。しかし近くの牧場で絞った牛乳を使っているというのでとても気になった。絶対に美味しいやつだ。

夕暮れ時、明かりの灯ったランタンに見送られて出発した。嬉野、早々に再訪したい場所になった。