日記

この間、演奏会へ行った。音楽には詳しくない。しかし曲目はベートーベンの第9、これなら私も有名な節は知っている。力強くて、合唱の声も合わさる迫力のある曲だ。なぜか年末によく聞く気がするのは気のせいではないと思う。確かにいかにも大団円という感じは、年の瀬のお祝いムードにふさわしい。

自由席だというので最前列に座る。通な人は音の響き方とか考えて席を取りそうなものだけれど、私はこういうときばかりは最前列が好きだ。観劇と一緒でステージに近いほど良席だと思っている。それに、楽器を演奏している様子を近くで見る機会なんてなかなかないから、その辺りも見てみたい。

しかし演奏が始まってから私が終始注視していたのは、指揮者の人だった。とにかくすごい。まず1時間以上もある演奏会で、立ち続けて指揮を執り続けるというのは、並大抵のことではない。すさまじい体力と集中力だ。指揮者の人は、ダイナミックに振りかぶったと思いきや、片方の手で何か抑えるような動きをしながらもう片方で指揮棒を振る。演奏に合わせてうなづき、時に口ずさみ、全身で拍を取りながら強弱や音をのばす止めるなどの緩急をつける。ソロの歌手が登場した後はもっとアクティブで、一瞬、台の上でジャンプしていらした。身体を使って音楽を演奏されているのだ。オーケストラの演奏と合唱と指揮、出力は異なる形でも、音楽を表現するという行いはすべて同じだということに気が付いた。

あれからしばらく経つけれど、いまだにあのメロディーがダイナミックな指揮により体で渦巻いている。今、私が怪我でもしようものなら、傷口から音楽が聞こえるかもしれない。