日記:招かれざる客は飛んで鳴く

玄関のドアノブの真横にセミが止まっていた。鍵を開けようとドアに近づいた私は違和感をキャッチし、辺りを見回し、奴を発見して短く叫び声をあげた。こういうときとっさに出る声が意外と高音なのはどうしてだろう? カラオケでもこのキーが出てほしいものなのだけれど。

閑話休題。私は虫が大の苦手だ。セミもご多分に漏れず苦手だ。野生の虫にしては大きすぎる。そして飛ぶ。更に鳴く。大の虫好き、ひいてはセミ好きの方には申し訳ないけれど、ドアノブの真横にセミがいる状況は、私にとっていいことが何一つなかった。きちんと虫コナーズをぶらさげているこの私の家に、本当にどうして? 

日傘を握りしめて、私は立ち尽くした。家に入るには、このセミにお引き取りいただかなくてはならない。意を決して、日傘の先でセミがいるあたりをどすどす叩く。異変を感じたセミに空高く羽ばたいてもらう算段だ。勢い余ってボディを小突いてしまったものの、飛び立ったところまではよかった。しかしなぜか奴は低空飛行して、ドアの前に着地した。私はまた鋭く叫んだ。泣きそうだった。

かくなる上は、動かれる前に素早く玄関を開けてあっという間に入室するほかない。カチャリと鍵を開け、そろりとドアを開く。身体をねじ込めそうなくらいに開けられたので、いざと踏み出したその時、奴は突然飛んだ。歌姫ばりのロングトーンが出た。幸いにも室内方面とは反対方向に飛んでいったため、事なきを得た。しかし戦いを終えた私はもはや這う這うの体で、帰宅後に少し落ち着こうとコーヒーを淹れようにも、膝ががくがくして仕方がなかった。もし、室内方面に飛ばれていたら。もしくは、家から出ようというときにドアの外がああなっていたら。考えただけで恐ろしすぎる。私の苦手な夏が始まってしまった。若干憂鬱だ。